茨の森の向こう







 誰もいなかった
 生まれた時から、周りには誰もいなかった



 物心ついた頃にはすでに犯罪を繰り返していて
 近くの店で食べ物を盗んだり、近くを歩く人から金を盗んだり



 それでもずっと生きてきた
 生きてる意味なんてありもしないのに



――待ちやがれ、このガキ!



 見つかったら、捕まらないように逃げる
 子供特有の逃げ足を使って、細い通路を通ったり、わざと人ごみの多いところを通ったり



 そうして逃げ切って、冷めた眼で自分を追ってきた人間を見る
 どうしてそんなにも必死に追いかけるのか、全然理解できない



 ねぇ、君はどうして生きてるの
 ねぇ、私はどうして生きてるの






 そうしていつものように自分が住むスラムへと帰ってくる
 ここから出ることの出来ない自分が情けなくて



 ふと壁にもたれかかっている人に眼を向ける
 いや……ここにいるのはみんな人なんかじゃない



 今日も死んだのね
 そうやって死人に対して何の感情もなくて、それが少しだけ怖くて



 ――いい情報教えてやるよ。明日、国の連中がこのスラム街を焼き討ちするんだってよ



 それがどうしたというのか
 死ぬ時期がただ少しだけ早くなっただけ



 けれど、どこか自分の胸が騒いでいる
 こんなところで自分は死ぬの?



 ねぇ、君は幸せ?
 ねぇ、私は幸せ?






 そうして私は逃げたんだ
 スラムを出て、裸足で走って、倒れるまで走って






 一人だけ、生き延びて