春の殺意







 その光景を見た瞬間、頭が真っ白になった



 辺り一面に広がる赤い血、死臭


 そして、横たわる多くの同胞たち







 何なの、これ……


 悪い夢でも見てるの?







 信じられないその光景




 戦いが起こっていると知り、駆けつけて助けたかった


 自分一人がいたところで何も変わらないかもしれないけど、それでも誰かを助けたかった




 そう思って、ここまで駆けたのに


 それなのに



 すでに戦いは終わっていて




 結果は分かりきった妖精側の全滅で




 そして、勝者はたった一人の人間
 

 妖精たちに背を向けて、砦へと帰っていく後姿 

 それを見たとき、どうしようもなく身体が震え上がった

  そして、私は気づいたら身体が動いていた
 

 

 叫びと共に現れる、手に収束する魔力

 
 それを無意識のままに、その人間へ攻撃しようとして

 

 

 

 そして

 気づいたら、終わりは間近だった

 ――どうして人間と一緒にいちゃいけないの?


 ――人間だっていい人はいっぱいいるはずだよ!

 
 ――どうして!どうしてそこまで人間を嫌うの!?

 これが、人間なの?

 

 妖精をこうも殺してしまうのが、人間なの?

 

 

 

 違う

 

 

 

 ――人間だって悪いやつばかりじゃないんだよ!

 ――俺はやっぱり分かり合えると思うんだ

 ――妖精と友達になる。それのどこがいけないんだ?

 

 

 そう

 

 私はそんな人間を信じた

 

 

 まだ子供だったからじゃない

 

 素敵な人間にだって出会えた

 

 

 
 私は人間と出会えて良かったんだ

 

 

 この短い人生が人間によって奪われたとしても

 

 それでも

 

 

 私は人間が好き

 

 人間を信じる

 

 
 だから、お願い

 

 

 お父さん、お母さん

 
 恨まないで

 人間を恨まないで

 

 

 人間を好きになって

 そうだよね?

 リュートお兄ちゃん