Mystisea
〜運命と絆と〜
一章 反乱軍
05 作戦会議
「そ
れよりもヘイス様。偵察の方は……」
「あぁ、そ
うだったな」
そう言っ
て報告をしようとしたが、あることに気づく。
「何でお前
がまだ残ってるんだよ!さっさと帰れっての」
その言葉
はセレーヌに向けられた。アレンは考えてみれば自分はまだ反乱軍に参加していなかったことを思い出す。報告などを聞くのはよくないことだと理解していた。
「そうです
ね。俺たちはそろそろ帰ります」
そう告げ
て帰ろうとすると、アイラがアレンを呼び止めた。
「待って!
もし良かったらサルバスタ解放に力を貸して欲しいの。…そしてそれを見て反乱軍に入るかどうか決めて欲しい」
「おいアイ
ラ、何言ってんだよ!?」
ヘイスに
してみたらセレーヌが入ってくるのはあまりいい思いがしない。しかしアレンはその言葉に一理あると思い、どうするか考える。セレーヌの意見を聞こうと思
い、彼女を見た。
「反乱軍な
んて入るの止めましょ。この男がいるところなんて疲れるだけよ」
その言葉
にヘイスはカチンときてセレーヌを挑発する。
「まぁ多少
なりとも帝国軍との戦闘が起こるからな。お前みたいなやつが帝国軍と戦ってもすぐに死ぬだけだ。それが怖いんだろ?」
「兄さんや
めてよ!」
笑うよう
に言ったヘイスをアイラがすかさず止めるが、セレーヌは挑発にのってしまった。
「ふざけん
じゃないわよ!帝国軍なんて私の敵じゃないわ」
「言うだけ
ならタダだって」
ヘイスの
言葉にセレーヌは激昂する。
「それほど
言うならやってやろうじゃない!アレン!この作戦に参加するわよ!」
「はぁ……」
アレンは
セリーヌのさっきとは打って変わった態度に呆れる。それを聞いていたヘイスは内心ほくそ笑んだ。ヘイスはセレーヌのような高飛車な女が嫌いだった。力がな
いくせして吼えているようでむかつく。今度のことも帝国軍と戦ってもすぐにやられるだろうと思っている。もちろん死んで欲しくはないが、それでもやられる
ところを見て後で笑ってやろうかとも思った。
「大丈夫か
しら……」
アイラは
二人が心配になってきた。グレイも後ろでため息をついている。
「それ
じゃぁ、報告するぜ」
ヘイスは
偵察として敵の戦力を見てきた。
「帝国軍は
二百ほどだが、そのうちの半分がザラム直属の部隊で、この街の精鋭だ。そしてもう半分は人質を取られているフューリア軍だろう。見知った顔も何人か見かけ
た。そして俺たち反乱軍は百。数だけを見れば負けているが、人質を助け出せば敵のフューリア軍であった百は俺たちにつくはずだ。そうすれば数は逆転して百
対二百になる。あとはザラムを優先して倒せば終わるだろう」
これが今
回の作戦だった。帝国との戦いで生き残った王国の軍は逃げ延びたか降伏したかのどちらかだった。降伏した者たちはそのほとんどが家族などの人質を取られ、
逃げ出すことを許さなかった。そして逃げ出した者たちのほとんども今では反乱軍の中にいる。グレイもその一人だ。
「人質はど
こにいるの?」
「砦の地下
牢だ」
「そ
う……」
アイラも
この作戦には賛成で、人質を助け出せば勝てると思われる。
「そういえ
ば反乱軍の百ってどこにいるんですか?」
さっきか
ら疑問に思っていたことをアレンが聞いた。この近くに百人もの人間が潜伏できる場所は見当たらないのだ。
「それ
は……この近くに王国でもあまり知られていない地下洞があるの。そこに隠れていて、当日になったら私たちが門を開けて手引きするってわけよ」
「地下洞
か……それは初耳だったな」
「私たちも
最近までは知らなかったのよ」
アレンは
疑問が解けたことでヘイスに続けるように促した。
「決行は明
日の夜だ。この作戦の鍵は人質を救出して、それを素早く敵軍に伝えることだ。そうだな……人質救出は俺と…お前にやってもらおうか」
そう言っ
てセレーヌを指差した。
「私はお前
じゃないわよ!」
セレーヌ
がすかさず言う。よく考えればまだセレーヌとアレンは名前を名乗っていない。それを思い出したかのようにアレンは今さらだと思ったが、名を名乗った。
「アレンと
セレーヌです」
「ふふ。そ
ういえば名前を聞くの忘れてたわね」
アレンが
セレーヌの分も名前を名乗ると、アイラが言った。
「じゃぁ人
質救出は俺とセレーヌ。そして仲間を手引きするのはアイラとグレイとアレンにやってもらおう。そのあと仲間と共に砦へ攻めてくれ。俺たちも急ぐからな」
「分かった
わ」
アイラが
答えて、そのあとにグレイとアレンが続く。
「何で私が
あんたと一緒なのよ?」
「お前の泣
いてる姿を見ないといけないからな」
「なんで
すって!」
アイラは
またもや喧嘩になりそうな二人をすかさず止めに入った。
「もうやめ
てよね!……とりあえず作戦は以上よ。アレン、セレーヌ、明日の夜になったらまたここへ来てちょうだい」
「分かりま
した。それでは今日は宿のほうに帰ります」
「えぇ」
それから
アレンとセレーヌは酒場を出て宿へと戻ろうとする。去り際にアイラが言った。
「アレ
ン……ありがとう」
「……」
それには
何も答えずにアレンは酒場を出る。セレーヌも最後の最後にヘイスに罵倒してからアレンの後に続くように酒場から出て行った。
宿にたど
りついた二人は部屋の中に入った。
「それにし
てもあの男むかつくわね!」
いまだセ
レーヌは悪態をついている。アレンはこういうところを見るとつくづくセレーヌが年上のようには思えない。
「だったら
無視すればいいだろう」
「腹立つの
よ!アレンもそう思わない?」
「別に。二
人ともガキなだけだろ」
「アレンま
でそんなこと言うの!?」
今度は矛
先が自分にきそうだったので、アレンは急いで話題を変えた。
「それで本
当のとこどう思った?反乱軍のこと」
セレーヌ
はその言葉に急に真面目な顔をして答える。
「そう
ね……思っていたよりも大きそうだったわね」
「それは俺
も思ったな。結構いい人材もいるようだし」
「やっぱり
今ここで反乱軍に入って利用するのが妥当なとこかしらね。あの男さえいなければもっといいんだけど」
そう言っ
たがセレーヌは本当はヘイスがいようがいまいがどうでもよかった。実は二人はある目的があって旅をしていた。反乱軍に入ることはその目的に近づくとも言え
ることであった。だが、その反乱軍が弱いようでは話にならない。
「そうだ
な……今回のことで様子を見るか」
「それがい
いわね」
二人は今
回の作戦で反乱軍の力量を判断することにした。それで十分だと感じれば反乱軍に入ることに決めた。もちろん入ったからには帝国軍はちゃんと倒すつもりであ
る。
「ふぁぁ。……
眠くなってきたからもう寝る」
話も一区
切りついたところで、アレンは眠気を感じたので颯爽とベッドへと入っていった。
「私は酒飲
んでから寝るわ」
アレンが
ベッドへ入ったのを見てセレーヌも寝ようとしたが、その前にちゃっかり帰りに買っていた酒を飲むことにした。早速取り出して口にする。
「ふぅ。
やっぱ酒はいいわね!」
アレンと
セレーヌが酒場から出て行った後、残された三人は二人のことについて話していた。
「本当にい
いのか?あいつらあんまし強そうじゃないけど」
ヘイスは
特にセレーヌのことを言っていた。
「それは兄
さんから見たらでしょ。普通の兵たちに比べたら強いはずよ」
アイラも
実際アレンとセレーヌの腕を見たわけではないので本当は少し不安だった。ヘイスの強さがかなりのものであることはアイラも知っていたので、さすがに兄と比
べるのは可哀相かと思ったのだろうか。
「しかし彼
らが入ってくれるかどうかは分かりませんよ」
「それはそ
うだけど……」
アレンは
考えると言っただけで、まだ入るとは言っていない。アイラはそんなことは分かっていたが、今はアレンを信じるだけだった。
「俺は別に
いらないと思うけどな。あんなやついたって迷惑なだけだぜ」
もはやヘ
イスにはセレーヌのことしか頭になく、アレンのことは頭から外れているようだ。
「兄さんは
すぐそう言うんだから……」
「まぁ、明
日になれば彼らの実力も分かるでしょう」
グレイは
そう言ったが、暗に今話し合っても無駄だということを言いたかった。
「そうね」
そう言っ
て三人は明日のためにもう少し綿密に話し合うことにした。