Mystisea
〜運命と絆と〜
三
章 紫電の盾
02 メレゲン砦攻略
明後日、メレゲン砦
を落とすために反乱軍は動き出した。砦までは一日もあれば辿り着く距離で、早朝から出発した反乱軍は夕方には着くだろう。そしてそのまま一気に落とす作戦
だった。
メレゲン砦は本来ブライア
ン軍の将官であるドランとその配下である帝国兵千が駐留しているのだが、ドランは現在ブライアンと共に帝都にある本拠地、ヴィラーナ城に戻っている。その
留守を預かっているのが師団長のヌーダであった。ドランはブライアン軍の参謀とも言える立場で、軍の中では一番知識を持っている人物でもある。なのでその
配下にも頭が回る人物もそれなりに多いのだ。ヌーダもその中の一人である。いくらメレゲン砦を守っているのが師団長といえども、兵力は敵の方が多く、楽な
戦いではない。一人一人が気を引き締めながら行軍していった。
「アイラ、本当に大丈夫なの
か?」
「大丈夫だって言ってるで
しょ」
その中でロウエンがアイラ
の心配をしていた。アイラの怪我はもうほとんど治り、今までのように戦える。セインやヘイスもそれでも今回の戦だけは見送りにするよう言ったが、アイラは
断固として聞かなかった。その意思を露にすれば、彼らも断ることなど出来ない。
「ロウエン、貴方は少し心配
しすぎよ」
「だったらもう少し自分の立
場を理解してくれ。本当はお前が戦うこと事体俺は反対なんだ」
「その件なら何度も言ってる
わ。私は自分の意思で戦うことを選んだのよ。王女だからって、女だからって戦っちゃいけないっていうのはおかしいわ!」
「けどな……」
「もういいだろ、ロウエン」
二人の口論はいつも考えの
違いから平行線だった。それを見かねたセインが口を挟む。
「アイラの意思は固い。それ
を覆すことなど俺たちには出来ないさ」
「セイン……」
そんなことなど本当は分
かっていたけれど、それでもロウエンはアイラに戦って欲しくなかった。そもそも昔からアイラに自分の気持ちが伝わっているのかさえ疑問だ。だからこそそれ
を伝えるためにも、アイラにはうるさくなっている。
「悪かったな、アイラ。だが
この戦いはお前の傍についてるからな」
「ロウエン……」
恐らくは何を言っても譲ら
ないだろう。隣でセインが苦笑しているのを見て、それも止めてほしいと心の中で願いながら、アイラは困り顔になりながらもそれを承諾した。
メレゲン砦に辿り着き、反
乱軍は陣を敷いた。それは簡素なもので、ただ五つの部隊に分かれてメレゲン砦を囲むというものだった。味方が六百に対して敵は八百。サーネルの読みではこ
の誤差二百はそれほど大きいものではないと見ている。つまり勝敗を分けるきっかけは指揮官の腕というところか。それに関してはサーネルは自軍に大きな自信
を持っていた。
「そろそろ始まります
ね……」
すでにメレゲン砦にいた帝
国軍も外へ布陣していた。両軍が睨み合う形になり、サーネルは会戦の合図を出す。それにより、反乱軍は帝国軍の中へと駆けていった。特に小細工などなく、
総力戦となるだろう。後は各部隊の指揮官たちに任せるしかなかった。
「さぁ、我々も行くぞ!」
今回はアイラがロウエンと
同じ部隊になっているために、それを指揮するのはサーネルだった。サーネルは軍略だけでなく、兵を統率する力にも優れている。魔術師として最前線で戦うこ
とは出来ないが、後方で支援したり指揮したりすることに関しては凄かった。
「地に住まう精霊たちよ。今
ここに現れ、そして空に向け咆哮を放て!」
サーネルの詠唱により地面
から大きな岩の塊が現れて飛び出す。それは帝国軍に向かっていき、その頭上へと降っていった。その魔術のせいで帝国軍は陣が乱れ混乱していく。その中に
サーネルの部隊は次々と突っ込んでいった。
「あのおじさん、結構な魔力
の持ち主ね」
「おじさんってな……お前本
人の目の前で絶対言うなよ」
前の戦いでアレンとセレー
ヌはアイラの部隊だったために、今回も変わらずにこの部隊にいた。セレーヌの失礼な物言いに注意しながら、アレンも敵軍の中へと駆けていく。その近くには
セレーヌがいながら。
「敵の数はそう変わらない
ぞ!落ち着いて倒せよ!」
ヘイスの掛け声が辺りに飛
んでいく。ヘイスは自ら前線に出て剣を振るっていた。一人一人確実に倒しながら、常に周囲の状況を確認する。ヘイスもまた兄たちに劣らず、剣の腕も指揮官
の腕も優秀だった。セインよりかは気さくな分、下の兵士たちにとっては親しみやすい。
「紅蓮なる紅き炎、その身を
以って味わえ!」
炎の魔術がヘイスの周りに
いる敵兵士を燃えつくす。ヘイスと合流してからは、リラは昔を惜しむかのようにくっついていた。ヘイスが離れろと言っても離れず、例え離れたとしても時間
が経てばすぐ傍にいる。最近の行動をだんだんと鬱陶しく感じずにはいられなかった。
ヘイスとリラの出会いは幼
少の頃で、年も変わらない二人は一緒にいることが多かった。リラがヘイスのことを好きなのは一目瞭然だが、ヘイスもまたリラが好きかと言われれば返答に悩
むだろう。嫌いではなかった。でなければ今でもリラと一緒にいることなどないだろう。けれどリラに対して愛はなかった。
昔幼馴染故の過ちと言うべき
なのか、子供の頃に将来結婚するなどと約束していた。それは時が経つにつれヘイスの中では子供の時の良い思い出として、けれどリラにとってはいつまでもそ
れだけが希望なのだ。二人の想いは噛み合わずにすれ違う。その負い目からも、ヘイスがリラに厳しくなれない原因の一つでもあった。
もしもヘイスが時期国王とな
る立場だったら本当にリラが婚約者となっていただろう。けれどフューリア王国では王子が何人いようとも、婚約者を定めるのは時期王となる人物だけだった。
長兄にも婚約者はいたし、亡くなれば次兄であるセインに婚約者が出来た。だからヘイスには公で決められた婚約者はいないけれども、王国の誰もがリラが婚約
者だと勝手に決め付けている。それは今でも続き、それがまたヘイスの悩みの種でもあるのだ。
「はぁっ!!」
ヘイスは次々と敵を倒して
いく。途中でリラが自分の近くにいた敵を倒しても、もうヘイスは何も言わなかった。なぜだか最近ではリラと話すだけで、疲れが押し寄せてくるのだ。この関
係をどうにかしないと分かっていながらも、その先にある面倒事を予測すると億劫になる。ヘイスはただただ逃げているだけだった。
「大地の恵み、木々の安ら
ぎ、草原の雄大さ、自然に溢れる者たちよ。我に力を貸せ!」
ロウエンの魔術がアイラの
目の前に広がる敵をなぎ倒していく。その行動に呆れながらも、アイラはロウエンを怒鳴った。
「いい加減にして、ロウエ
ン!そうやって大きな魔術で私の敵まで倒さないでよ!」
「アイラ……」
ばれてないと思っていたの
だろうか。魔術で自分の敵を倒すと同時にアイラの敵をも倒す。ロウエンはいい作戦だと思っていたのだが、それは簡単にアイラにばれていたようだった。
「何度も言うけど貴方の気持
ちは嬉しい。けれど度が過ぎるのよ。いい?今度同じことをしたらもう二度と口利かないからね!」
「なっ!アイラ!?」
アイラはこれで話は終わり
だとばかりに、敵陣へと走っていく。その戦いざまは見事なもので、女とは思えないほどでもある。アイラの実力はロウエンも分かっているのだが、それでも心
配せずにはいられない。けれど先ほどの目が本気だったことを思わせ、ロウエンはこれ以上余計なことをするのは止めた。自分も気を引き締めなおし、目の前の
敵へと魔術を放つ。
アイラはそれを確認しなが
ら、やっとのこと自由になれたという開放感があった。
「さぁ、怪我をした方はこち
らへ」
戦場から少し離れた場所に
ある回復魔術師の部隊。それぞれの部隊にも回復魔術師は何人か配置されているが、ほとんどはこうやって後方で少数の護衛と共に待機している。いざとなって
も戦うことは出来ないからだ。部隊と一緒に混じっている回復魔術師はほとんどが、攻撃魔術も使える。けれどどちらも中途半端で、大きな傷を治すことは出来
ない。応急処置という程度だろう。それほど軽傷でもなければ、大抵こっちの方へと送られてくるのだ。
「危険な状態の方はいません
か!?」
「重傷の方はすぐに診ま
す!」
「手際よく診ていってくださ
い!」
回復魔術師の部隊を指揮す
るミーアが慌しく号令を出している。そこまで数のいない回復魔術師たちは、戦いが起こるたびに大忙しだった。けれどその活躍は地味だが大きく、反乱軍の中
でも優遇されている。数日前からはそれにサラも加わり、その存在は大きかった。魔力はミーアよりも高く、それを鼻にかけることもない。指揮官は変わらず
ミーアとなっているが、実際一番働いているのはサラともいえた。いきなり指揮官より高い能力の人物が現れても、誰もがその存在をすんなり受け入れている。
ミーアもいつ指揮官をサラに変えるといわれても、平気で受け入れるだろう。
「ミーア様、疲れていません
か?」
「大丈夫です、サラさん。サ
ラさんがいるおかげで、今日は大分楽になってますよ」
「そうですか。余り無理はし
ないでくださいね」
こうやって周りにいる人間
に気を配っているのも人気の一つだった。相手が王族だろうと貴族だろうと一般兵だろうと、変わらずに接してくれるのだ。
「サラさんこそ、大丈夫です
か?今まで修道院にいたのであれば、戦場での仕事は初めてではないのでしょうか。疲れたら休んでください」
「私は大丈夫です。こんな風
景も初めてではありませんから……」
怪我人が包帯を巻きながら
寝転んでいたり、無理をして戦場に戻ろうとしていたり、回復魔術師たちが慌しく駆けていたりしている。そんな懐かしいとも思える光景にサラは不謹慎にも微
笑んでしまった。
「サラさん……」
その横顔
を見ながらミーアはその名をいつの間にか呟いていた。
