Mystisea

〜運命と絆と〜



二章 ダーナ城奪還


10 ダーナ城の決着







「オ ラオラ!てめぇの実力はこんなものか!?」
「くっ……」
 グレイと ニアの攻防は一方的にニアが攻撃を繰り返していた。グレイはニアの次々と繰り出される激しい攻撃に防戦一方だ。反撃しようにもニアはその隙を与えずに文字 通り休まず攻撃を続けるので、グレイはなかなか厄介な相手と出会ったものだと思った。
「もう少し 頑張ったらどうなんだ!」
 ニアが攻 撃にさらに力を込めてくる。負けずにグレイもだんだんと力を込めて少しずつニアを押し返していった。そのおかげか、だんだんと攻撃は互角くらいになってく る。グレイの勢いを感じて、ニアは一度後ろへ跳んだ。
「やれば出 来るじぇねぇか。最初からそうすりゃいいんだよ」
「そうか。 ならば望み通り本気で相手をしてやろう」
「それ じゃぁ、その本気ってやつを見せてみろよ!」
 ニアは大 きく跳び、グレイの頭上から槍を振りかざしてきた。グレイはそれを避け、すぐに動けないニアへすかさず攻撃する。しかしすぐにニアは体勢を整え、その攻撃 に防戦する。
 グレイの 一撃とニアの一撃、どちらも鋭く強烈で、まともに当たればひとたまりもないだろう。それが分かっているかのように、二人は攻撃を受けないように、避けたり 槍で受け止めたりする。それでも全てを避けることは出来ず、だんだんと二人の身体にも傷が見え始めていた。
「あんたの その槍、結構な代物じゃねぇか」
「ほぅ…… お前みたいな雑魚でも分かるのか?」
 二人は戦 いの最中とは思えないほどの余裕さで、言葉を挟む。それはつまり二人ともまだまだ本気を出していないことなのかもしれない。
「分かる さ。その槍からかなりの波動を感じる」
「なるほ ど。ただの戦闘狂でもないようだな」
「いい ねぇ、その槍。……あんたを殺して俺の物にするぜ!」
 ニアの一 撃に今までよりも大きな力が加わる。負けずにグレイもさらに力を込めた。
「この槍は 俺の命に等しき物。お前如きが触れることさえ叶わない!」
「それはど うかな!あんたが死ねば俺の物になるんだぜ!」
「馬鹿な奴 だな」
「何!?」
「お前には 俺を殺すことさえ不可能だと言っているんだ!」
 グレイは ニアから距離を取り、槍先をニアに向けるように構えた。ただならぬ気配を察知し、ニアも攻撃に備え槍を構える。
 刹那、グ レイが一瞬で消えた。もちろん消えたわけではないが、ニアにはグレイが消えたように見えた。それほどに素早く動いたのである。ニアは一瞬呆然とするが、す ぐにグレイを探そうとする。その時、後ろより大きな殺気を感じ、ニアは本能的にその場を離れようとした。
「ぐっ……!!」
 ニアの行 動は完全には間に合わず、グレイの槍がニアのわき腹をかすめた。ニアはかなりの大きな傷を負ったが、これはまだ運が良かった方だった。もし直撃していれ ば、それこそ命はすでになかっただろう。
「避けた か」
「く そっ!……調子に乗るなよ!!」
 ニアは自 分が不覚を取ったことを理解しながらも認めようとせず、それを頭から振り払い憎悪をグレイへと向けた。






 城の中に は予想通り敵兵の姿は全然見当たらなかった。邪魔するものもいないので、セインはサーネルの案内の元、どんどん先へ進んでいく。
 セインは 子供のころにダーナ城へ何回か来たことがあった。そのほとんどが父や兄と一緒で、言わばおまけとしてだ。しかし、そのおかげでセインは今では親友とも呼べ るロウエンと出会った。
 ロウエン と初めて出会ったのは、まだ二人が十歳のころである。ずっと城で生活してきたセインにとって、ロウエンは初めて出会う同年代の子供だった。何度か城へ来る 度に、二人はどんどん仲が良くなり、一年後にはすでに親友と呼べる間柄だったのだ。その時にはまだミーアとは婚約してはいなく、セインにとってミーアは二 番目の妹という思いだった。その妹が自分の婚約者となったのは、兄が戦争で死んだ時だ。
 セインの 兄は国中の人間から慕われていて、セインの目から見ても多少いい加減なとこはあったが、フューリア王国を継ぐべき人物に相応しいことは間違いなかった。そ の兄が死んだ報せを受けたときは、国中が悲しみに覆われた。しかし、それもすぐに国の兄への期待がセインへと向き始めた。それまでしていた勉強や訓練がさ らに厳しくなり、婚約者も定められた。セインはその時の気持ちを今でも忘れてはいない。
 セインに は、勉強も訓練も同じ歳だった時の兄にも、負けてはいないという自身があった。事実、兄はいい加減なとこが多く、訓練もよくさぼっていたり、勉強など全く していなかったのだ。それでも周囲からの人気は絶大だった。その兄の影を周囲がセインに求めていたことは、セインにとって苦痛でしかなかった。けれど、そ の苦痛をもセインは乗り越えようと、ただひたすら頑張ってきた。次第にその努力が表にも出始め、数年後には兄のことを口に出す者は一人もいなかった。その 時、やっとセインは兄を超えることが出来たのだと思い始めた。そんな矢先の出来事だった。フューリア王国がヴェルダ帝国に滅ぼされた事は……。
 そして兄 の影に囚われていた時のセインを支えてくれたのがロウエンだったのだ。
 セインは 心の中にさまざまな思い出を駆けながら、ロウエンと初めて出会ったダーナ城を走っていた。
「セイン 様、あの扉の先にマードックがいるはずです」
 サーネル は走るのを止め、セインを振り返った。セインにも見覚えがあったその扉は、城主の間へと続くものだった。
「わかっ た。敵兵もまだいるだろう。油断するなよ」
 セインの 後ろには十数人の兵士がいた。この城へは一部隊の百人で来たが、残りの兵は城の中で別れ、今頃城中を制圧しているだろう。
 そしてセ インは扉を勢いよく開けた。
 室内が静 まり返る。
「な、何だ お前らは!」
 その静寂 の場に、一番に声を上げたのはマードックだった。
「お前が マードックだな。私は反乱軍リーダー、セインだ」
「馬鹿な! 反乱軍リーダーだと!?ど、どうやってここへ!」
 マードッ クの周りには六人の兵士がいるだけだった。その兵士たちはすでにマードックの前に守るように立っている。
「この城へ の抜け道を通ってきたのです。よくも今まで私の城で好き放題やってくれましたね」
 サーネル が前へ一歩踏み出す。
「抜け道だ と!?そんな馬鹿なことが……」
「覚悟だ、 マードック。逃げ場はないぞ!」
「えぇい! 反乱軍のリーダーならちょうどいい!お前ら、その男を殺せ!」
 マードッ クは前に並んでいる兵士たちに命令する。すかさず兵士たちは一人前へ出ていたセインに斬りかかる。しかしその刃はセインに届くことすら叶わなかった。
「切り裂き の刃よ!」
 サーネル の魔術が兵士全てを切り刻んだ。
「く、く そっ……!」
「どうし た?後はお前一人だぞ」
 セインは 剣を片手に一歩一歩マードックの方へと進んでいく。
「ふざける な!私はブライアン軍の将官なのだ!お前みたいなやつにやられはしない!」
 マードッ クは勢いよく立ち上がり、剣を振り上げた。セインはそれを軽々と避け、マードックを斬りつける。しかし間一髪でマードックは避け、剣先がかすめただけだっ た。さすがは仮にも将官ということなのだろう。
「サーネ ル、手を出すなよ」
 今にも魔 術を放ちそうなサーネルを抑えて、セインはマードックにもう一度攻撃する。マードックはそれを剣で受け止めながら、隙を見て反撃した。その反撃をセインも 剣で受け止めたが、一撃が重く、バランスを崩してしまった。それをマードックは見逃さず、チャンスとばかりに止めを狙う。
「死ね!」
「そうはい くか!」
 セインは ギリギリのところで避け、そのままマードックの後ろへと周る。マードックもそれを見て、すぐに後ろを振り返るが、すでに遅かった。
「もらっ た!!」
 セインは 勢いよく、上からマードックの身体を斬りつけた。
「ば、馬鹿 な……。私がこんな小僧にやられるというのか……」
 マードッ クは倒れながら、傷口に手を押さえている。すでに剣は手から離れて、後は死を待つだけだろう。マードックの前にセインがゆっくりと立つ。
「終わり だ、マードック。お前がこれまで民たちにしてきた非道の数々、悔いながら死んで行け!」
 セインは 剣をマードックの心臓に深く深く突き刺した。それは、まるでセインの憎しみの深さを表しているかのようだった。そのまま静かに立っているセインにサーネル が声を掛ける。
「見事でし た、セイン様。ですが、これで終わりではありません」
「……分 かっている。急いで城の外へ!マードックの首を帝国軍のやつらに見せてやれ!」
 その声と 同時に、そばにいた兵士たちは歓声を上げながら、未だ終わらない外の戦場へと向かった。
「セイン 様、我々も行きましょう」
「あぁ」