Mystisea
〜運命と絆と〜
二章 ダーナ城奪還
03 魔獣の襲来
翌
日、朝早くからサルバスタは慌しかった。反乱軍はすでに出発の準備を終えて、号令を待つだけである。その彼らを見送ろうと街の人々も朝から大勢の人たちが
砦の近くへと押しかけていった。
ダーナ城
を攻めることをサルバスタの人たちに伝えただけで、なんと民から五十もの志願兵が現れた。おかげで反乱軍は予想していない戦力を得る。しかしそのほとんど
が戦ったこともない街の人なので、実際はそれほど戦力アップとはいえなかったが、それでも増えないよりかは全然マシだ。
やっと反
乱軍が出発する時が来る。みんなはこれから起こるであろう戦に不安と期待など様々な感情でいっぱいだった。しかしその誰もが絶対に勝つという信念が伺え
た。
「なんかみ
んなピリピリしてるわよねぇ」
セレーヌ
が緊張もしていない声で一人事のように呟いた。しかしその隣にいたアレンには聞こえたようで同意しながらも目で咎める。セレーヌはそれに気にした風もなく
話す。
「これから
五日もかけて歩くのよね。つまんないわぁ」
「うるさい
から黙って歩いてろよ」
セレーヌ
の気持ちが分からないでもないが、だからといって口に出しても変わるわけもない。セレーヌもそんなことは分かっていたので文句をいいながらも次第に黙って
いく。
それから
数刻が経った後、突然前方のほうがざわつき始めた。後ろにいる人たちは何事だと思いながら前方を見やる。
「魔獣の群
れだ!!」
一人の男
の悲鳴が聞こえ、その言葉に反乱軍はどよめく。先頭にいたセインは魔獣がいたことに気づけなかった自分を悔やみながらも、すぐに状況を判断する。魔獣の数
はおよそ<ベルド>が百体に<ピス>が五十体ほどだろうか。合わせれば百五十体に達する。これほどの群れなどセインはなかなか見たことはなかった。恐らく
は帝国が操っている魔獣の群れなのだろう。反乱軍を視界に入れると敵と認識して襲い掛かってきた。
<ベル
ド>は魔獣の中でも最も弱く、本能のままに襲う魔獣だ。<ピス>も戦闘能力は弱いのだが、こいつは外見が鳥のようでかなりの素早さを持っていることが厄介
だった。知能も少しばかりある。加えて<ピス>には飛行能力が備わっているので、後ろにいる部隊のほうが危険だった。精鋭部隊は前方にいて、後方はどちら
かというとまだまだ新米の兵士ばかりなのだ。
案の定、
<ピス>は狙いを後方に定めて反乱軍の頭上を飛び越えながら後方の部隊を襲いにかかってきた。
「慌てる
な!陣形を崩さず落ち着いて素早く倒せ!」
セインは
前方にいる精鋭部隊に対して素早く<ベルド>を倒すように命じる。早くこっちを片付けて後方の援護に向かわなければいけないのだ。内心焦りながらもそれを
見せることなく次々と<ベルド>を倒していく。実際数だけで言えば前方は百と百なのだが、それほど苦戦することは精鋭部隊にはなかった。
しかし後
方では百五十と五十という大差なのだが、兵士が混乱しすぎているので次々と襲われていた。遠すぎてセインの声も届かない。応戦しようにも空からのヒットア
ンドウェイ攻撃だったので、混乱している彼らには厳しかった。
「く
そっ!」
アレンは
自分に向かってくる<ピス>を倒し続けているが、周りの状況に危険を感じていた。どうしたものかと思いながら考えていると、ふと近くにいる一人の兵士に目
がいった。他の兵士のように逃げ回らないで、一人<ピス>に向かって剣を振り回していた。しかしその剣捌きもまだまだ粗が多く、見ていて危なっかしいもの
でいつやられるのではないかと見てるこっちが心配になってきた。すると<ピス>がその兵士に目をつけたのか三体同時に襲おうとしていた。アレンは咄嗟にま
ずいと思い兵士のもとへと駆けつける。
「何なんだ
よ!こいつら!」
兵士は悪
態をつきながらも一生懸命剣を振り回す。しかし急に前と後ろと横から魔獣が一気に来るのを見て避けられないと悟った。
「……ッ!!」
来るであ
ろう衝撃に目をつぶって備えるが、いくらたってもその衝撃は来ない。恐る恐る目をあけると、周りには<ピス>の残骸と一人の少年が剣を振り上げていた。
「あなた
は……」
この少年
は確かサルバスタで入った兵だった記憶がある。先ほどからこの状況の中で<ピス>を次々と倒していたのを見ていた。それを見て自分もやる気になったのだ。
しかしそれはここから少し離れた場所だったはずだった。いきなり現れた少年に兵士は戸惑う。
アレンは
目の前で戸惑っているであろう兵士をとりあえず無視して、逃げ惑っている兵士たちに向かって叫んだ。
「逃げる
な!逃げればやつらの格好の餌食になるだけだ!!」
アレンの
迫力のあるその言葉で兵士たちは動きを止め、少しずつ落ち着きを取り戻していくように見えた。
「向かって
くる攻撃を見極めて反撃しろ!一人で無理なら複数で一体ずつ確実に仕留めるんだ!」
すると
さっきまでの行動が嘘のように反乱軍の兵士たちは今まで逃げていたことを恥じながらも次々と魔獣へ向かっていく。それを見ていた先ほどの兵士は少年に対し
てすごい驚いていた。自分とさほど変わらないであろう少年が今まで逃げていた兵士たちを纏めてしまったのだ。驚かないほうが無理だろう。しかし今はそんな
暇もなく、すぐさま自分も魔獣を倒しにかかる。
急に今ま
で乱れていた反乱軍がやる気を見せてきたので<ピス>は段々と数が減っていった。残り十体ほどになったところで<ピス>は少ない知能で一矢報いようとし
た。彼らを奮い立たしたであろうと思われる原因であるアレンを目標としてきたのだ。残りの<ピス>全てがアレンへと向かって攻撃してきた。それを見ていた
周りの兵士たちは口々に「危ない」と叫んだ。しかしアレンはそれを見ても剣を構えることなく、むしろ剣をしまってしまった。それを見た兵士たちはみんなも
う駄目だと感じ、眼を瞑る者さえいた。
「早く逃げ
ないと!」
先ほどの
兵士も叫ぶがアレンは突っ立ったまま笑っているように見える。そんなアレンを見て兵士は避けれないと悟って狂ってしまったのかと一瞬思うほどでもあった。
すでに
<ピス>が後数秒でアレンの体にその嘴が突き刺さるというところだった。そのとき――
「え……」
周りにい
る反乱軍はみんな驚いた。<ピス>が一瞬にして全て焼き焦げたのだ。その炎が放たれたであろう方向を見やると、そこには呆れたような表情をしていた女の姿
があった。彼女の右手からはいまだ先ほどのなごりともいえる炎がちらついていた。
「何で私が
こんなことしなきゃいけないのよ」
別段嫌そ
うに思えない声で言いながらアレンへと近づいていった。
「おかげで
助かったよ、セレーヌ」
女――セ
レーヌが絶対に助けてくれる確信があったからこその行動だった。セレーヌもそんなことは分かっていたので特に何も言うことはなかった。しかし周りから見れ
ばかなりの驚きだ。もしセレーヌが魔術を放っていなかったら死んでいたかもしれなかったというのに。
その時
やっと前方から精鋭部隊が現れた。
「大丈夫
か!?」
セインは
そう言いながらも周りを見て、戦闘が終わったことは分かった。しかし反乱軍の兵士であろう死体も散らばっていた。その数はおよそ三十ほどだろうか。前方か
らも後方が混乱していたことは分かっていたので、犠牲は覚悟していのだが三十というのは予想よりも少ないほどだった。むしろ戦闘が終わっていたことさえ予
想していなかったのだ。その点を見れば予想より被害が少なく、安心したが30と
いう被害は小さくもなかった。セインはやはり魔獣の群れを発見出来なかったことを悔やんだ。
その後犠
牲になった人たちを埋葬してから、遅れを取り戻すかのように反乱軍は進軍を急いだ。