Mystisea

〜想いの果てに〜



一章 忍び寄る魔


02 ギレインとの対話








 ようやくギレインの自室の前へたどりついたが、その時のリュートの身体は緊張していて、その様は見ていておかしいほどであった。勇気を出して扉をノックすると、中から返事が返ってくる。
「誰だ?」
 その声はまさしくギレインのもので、その声を聞いただけでリュートはさらに身体に力が入った。
「あの、ライル先生からギレイン様に書類を渡すようにと頼まれてきたんですが……」
「ライルから?……分かった、入れ」
 いよいよギレインと対面する時が来たと思い、リュートは扉を開けた。すると部屋の中にはギレインともう一人、シューイの姿があった。
「あれ、シューイいたのか?もしかして邪魔した?」
「いや、話は今終わったとこだ。俺はこれから帰るから大丈夫だ」
 シューイ=デイン=アルスタール。彼はアルスタール帝国皇帝の一人息子であり、七代目皇帝になる人物だ。現在はリュートと同じ仕官学生で、同じクラスである。そしてシューイはクラスの中でもNo1の強さを誇り、その実力は騎士団長に並ぶほどとも言われていた。さらにシューイは金の髪を持っていたので、幼いころからずっと神の子と言われ人々に尊敬されてきた。
 この大陸では金と銀は神を象徴し、それらの髪や瞳を持って生まれてくる子は神の子と呼ばれている。しかもただ呼ばれるだけでなく、神の子はほとんど例外なくそれだけで人々から敬われている。なぜなら金と銀を持って生まれてくる子は滅多にいなく、大陸中でもなかなか見れるものではないからだった。さらに神の子の中には他の人よりも何かしら優れていることが多い。シューイもその中の一人だったのだろう。そして彼はこの大陸の覇者である皇帝の息子であり、さらに金の髪を持っていることから、その名を知らぬものは誰一人いないほどだった。
「ほぅ。シューイ様にタメ口で話す人がいるとは思わなかったな」
「あ…、すみません……」
「かまわない。俺がタメ口で話すように頼んだんだ。最もそう言ってもほとんどの人が遠慮していたけどな」
 ギレインはリュートがタメ口で話すのにすごく驚いたような顔をしていた。そもそも次期皇帝の人物に敬語を使わないリュートが珍しく、ギレインの反応が普通なのだが。
「では私はこれで失礼します」
「分かりました。……シューイ様、例の件よろしくお願いします」
「……出来る限り善処しておく。じゃぁな、リュート」
「あ、あぁ」
 最後にリュートに言葉を掛けてシューイは部屋を出て行く。そしてシューイが出て行ったのを見届けてからギレインがリュートに話しかけた。
「さて、ライルから頼まれてきたのだったな」
「はい。これを渡すようにと……」
 リュートはライルから受け取った書類を出して、ギレインに渡した。ギレインはそれを見ると、「ふむ」と呟き、リュートの顔を見る。
「な、何か……?」
 リュートは何か間違いを犯して責められるのかと動揺したが、ギレインの発した言葉はそれとは逆であった。
「ご苦労だった。届けてくれてありがとう」
「いえ。お役に立てたのなら光栄です」
 褒められたことが嬉しかったのか、リュートは少し上機嫌になった。そして、用事を済ませたのでそろそろ部屋を出ようとする。
「それでは俺はこれで……」
 リュートが部屋から退室しようと歩き出すと、ギレインはリュートを呼び止めた。
「待ってくれ。私からもライルに渡したいものがあるんだ。出来れば頼まれてくれないか?」
「え、俺がですか?」
「あぁ、君だからだ。ライルが信用した者ならば私も信用しようじゃないか。良かったら君の名前を教えてくれないか?」
 ギレインが予想外の言葉を発してきたので、リュートはすごく驚いたがそれに対して嬉しそうな声で答えた。
「はい!俺の名前はリュート=セルティンです!」
「リュートか……覚えておこう」
「あ、ありがとうございます!」
 まさかギレインに名前を覚えてもらえるとは思ってもいなかったので、かなり困惑したが、その気持ちもすぐに消え、部屋を出た後はかなり嬉しそうな様子だった。
(まさかギレイン様に名前知られるなんて思ってもいなかったよ……。これもライル先生のおかげかな)
 リュートは上機嫌のままギレインに渡された書類をライルに渡そうと思い、今度は訓練室に向かって歩き出した。



 訓練室に入るとそこにはライル一人しかいなかった。
「リュートか。書類は渡してきてくれたか?」
「はい、ちゃんと渡してきました。それとギレイン様も先生に渡してほしいと……」
 ライルは一瞬驚いたような顔をしたが、その後、何か納得したような表情を浮かべながら書類を受け取った。その書類を少し見た後、リュートにギレインと会った感想を聞いた。
「ギレイン様はどうだった?優しい人だっただろう」
「はい。厳しそうな人だと思ってましたが、結構人の良さそうな方でした」
「そうだろうな。あのような人がもっと帝国にいてくれれば良かったんだが……」
 その時のライルの表情は難しそうな顔をしており、どうかしたのだろうかとリュートは思う。しかしライルはそれを振り切るように首を振った後、別の話を切り出してきた。
「それと明日の課題のことだが……」
 そう言われて今日マリーアに言われたことを思い出した。
「そういえば明日は先生も一緒に行くんですよね?」
「あぁ。詳しい内容は明日話す。朝早くにレイとセリアと一緒にここまで来てくれ」
「分かりました」
「今日はありがとな。後はもう部屋に帰って休んでいいぞ」
 ライルは、自分やギレインの頼みを聞いてだいぶ疲れていると思い、リュートを労った。リュートも今日はいろいろあって疲れていたのだろう。少し早いとは思ったが部屋へ帰って休みはじめた。