Mystisea

〜想いの果てに〜



一章 忍び寄る魔


07 一時の平穏








 やっと城が見えてきたとき、リュートはかなり喜んだ。ここまでの間誰一人として喋らず、時間も行きの倍以上のように感じられた。周りを見てみるとレイとセリアも少し嬉しそうな顔をしていた。
「セリア!」
 城のほうからセリアを呼ぶ声が聞こえてきた。誰かと思ってみてみるとシューイであった。
「シューイ様、どうしてここに?」
 セリアはシューイがここにいることが疑問だったので口にした。
「お前たちが夜になっても帰ってこなかったから心配していたんだ」
「シューイ様……ありがとう」
 セリアはシューイが心配してくれたことを知って嬉しかった。そしてリュートが気づくといつのまにか二人は見つめあっていた。そんな光景に笑みを浮かべていると横からレイが二人をからかう。
「シューイ様の場合は僕たちじゃなくてセリアだけだと思うけどな」
「レイ!」
 セリアは恥ずかしいのかレイに向かって叫ぶ。それを見ていたリュートとシューイは笑っていた。
 リュートはこんな今を楽しく思って、いつまでも続けばいいと願った。胸の中にある何かの小さな不安がよぎっていたとしても。
「それで何があったんだ?」
 シューイはとりあえずみんなが無事で戻ってくれたことに安堵したが、こんなに遅くになってから帰ってきたのだから何かあったのだろう。それがすごく気になっていた。
「シューイ様。今日はリュートたちも疲れています。できれば話は明日にして今日は休ませてあげたいのです」
 シューイの質問にライルが答える。これはライルの本心で本当に今日はいろいろとあったので少しでも早く休ませてあげたかった。
「それもそうだったな。すまない、気が付かなくて」
 シューイは自分が知りたかった思いが強かっただけに、セリアたちの疲れているからだを考えなかったことに反省する。
「それじゃぁ俺はアイーダ様に報告してくるからお前たちも今日はもう休め」
「先生!今日は……」
「今日のことは気にするなよ」
 そう言ってライルは振り返らず城へ入っていく。リュートたちもここにいてもしょうがなかったので城へと入っていった。
 リュートはとりあえず部屋へ戻る前にみんなに会いたいと思って休憩室に行こうかと思った。それなら一緒に行くとレイたちも言ったので四人で行くことにした。

 休憩室へ入った途端に少し遠くから笑いを含んだ声がかかってきた。
「やけに遅い帰りだな。なんか失敗でもしたのか?」
 声を発した人物はかなりの巨体を持っていた。
「ガルドー……」
 ガルドーはリュートと同じクラスであり、いつも一方的に何かにつけて因縁を付けてくるやつだった。彼はリュートを嫌っていた。自分よりもリュートのほうが強いということがさらに苛立たせているのも原因だ。
「どうせだったら死んでくれればよかったのにな」
「なんだと!」
 いつもだったらその言葉も無視していたのだが、今日は実際ライルが助けてくれなかったら死んでいたかもしれなかったので余計にカチンときた。レイもその言葉に怒ったが、自分が出ても余計こじれるので後ろのほうから見ていた。
「まぁまぁ、落ち着けって」
 殴り合いに発展しそうな二人を仲裁したのはキットとキッドだった。二人はリュートの悪友だが、ガルドーとチームを組んでもいたのであまり喧嘩をしてほしくはなかった。だがガルドーとリュートのどっちがいいかと言われたらリュートと答えてしまうだろう。
「けっ」
 止められたので、やりあう気が失せたのかガルドーはリュートに興味を無くしたように今度は無視をしはじめた。リュートも同じように無視することにする。そんな二人を見てキットたちはいつものことだと思いながらもため息をついていた。
 とりあえずガルドーのことは放っておいてキッドがリュートに話しかける。
「それはそうと本当に何かあったのか?いくらなんでもこんな遅くまでかからないだろ」
 リュートは何て答えればいいか分からなかった。とりあえず当たり障りなのない返答をしたが、やはり二人はあまり納得していなかったようだ。それでも追及をしてこなかったのでリュートは安心した。それからリュートはこの話題を避けようと思い他の話を切り出したら、案の定キットがそれにすぐ喰いついてきた。



 リュートとキッドたちが話している間にシューイとセリアはやっかいな人間にからまれていた。
「ちょっとセリア!なんであんたがシューイ様の隣にいるのよ!」
「リンダ…」
 セリアは呆れたように突然現れた彼女の名を呟いた。リンダという少女はセリアと同じクラスの人物であり、セリアと恋のライバルでもあった。リンダはシューイのことが好きなので、いつも傍にいるセリアが鬱陶しいと思っている。なのでいろいろな手を使って二人を引き離そうとしていた。その行動にシューイとセリアはいつも迷惑を被っていたのだ。シューイ自身もリンダのことはただの友人としか見ていなかったので困ってもいる。本当はリンダもそのことは分かっているのだが、それを認めずに日々シューイの恋人になるために頑張っているのだった。
「とっととそこからどきなさいよ!」
「だからなんで貴女にそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
 セリアとリンダもリュートとガルドーほどとは言わないが、会うたびに喧嘩になっていた。いつもリンダから絡んでくるのだが、セリアもその理不尽さに対して何か言わずにはいられずにいたのだ。そしてそれをいつも止めるのは喧嘩の原因となっているシューイだった。
「二人とも止めろ」
 シューイはいつものように呆れながら二人を止める。
「シューイ様……」
 すでにリンダはシューイに声を掛けられたことにより意識はシューイにむかっていた。そして今度はシューイにいろいろ話しかけた。その様はまるでマシンガンのように早口で一気に捲くし立てるようだった。
 そんなリンダにシューイはかなり困惑気味で、それを止めようにもリンダはこちらがおかまいなしのように話し続けていた。いつものことだとセリアも横でため息をつく。
 一通り喋り終わったのかリンダは一旦話すのを止めた。そのあとに思い出したかのようにセリアのほうを見て言う。
「そういえばあんた、なんでこんな遅かったのよ」
「えっ。それは……」
 セリアはリンダがそんなことを聞いてくることに驚いた。それと同時にその返答に対しても困る。そんなセリアをみかねてシューイが助け舟を出した。
「セリアも疲れているんだ。そのことはまた今度にしてやってくれ」
「……シューイ様がそう言うなら。…けどねセリア、あんたは私のいないとこで勝手に死なないでよね。あんたを倒すのはこの私なんだからね!」
 セリアはリンダがこんなことを言うとは思っていなかった。セリアにもこの言葉がリンダなりの心配していた言葉であったことが分かった。それを聞いたセリアも素直にお礼を返すことにした。
「ありがとう、リンダ」
「なっ、なんであんたにお礼を言われなきゃいけないのよ!」
 リンダは急にお礼を言われて顔が赤くなった。予想通りのリンダの反応に対してセリアとシューイは笑った。
「何笑ってんのよ!」
 まだ笑っているセリアを見てリンダはだんだんと怒りが沸いてきた。そのあとさっきとは逆にセリアにむかっていろいろな罵倒を繰り返した。それを聞いたセリアも怒り、いつものようにいつの間にか喧嘩に発展する。シューイはそんな二人を見ながら深いため息をついていた。