Mystisea
〜想いの果てに〜
一章 忍び寄る魔
08 扉の先には
シェーンは休憩室に入ってきたリュートを見て、安堵すると同時に不安になった。リュートの表情がいつもと違っていたのだ。あの表情はリュートがいつも無理をして何かを溜め込んでいるときのものだった。やはり何かあったのだろうと思い声を掛けようとすると、その前に自分に話しかけてきたやつがいた。
「良かったじゃんか。お前の大事な幼馴染が無事に帰ってきてくれて」
「別にそんなんじゃない」
「嘘つくなって。あいつが入ってきたときのお前の安心していた顔はすごかったぞ。俺でも分かるくらいだった。まぁ、俺としてはやっぱ妬けちゃうね」
「……勝手に言ってろ」
シェーンに話かけた男はハルトという。彼もまたリュートと同じクラスの人物だ。ハルトはいつも何を考えているのか分からないやつだった。シェーンに惚れているようで彼の現在の目標はシェーンを笑わせることである。といってもシェーンはハルトのことは相手にしていなかったが。
「つれないなぁ。本当にリュートのこと以外はどうでもいいんだよな」
ハルトは常にふざけたような性格をしているのでみんなに誤解されがちだが、ちゃんと見ているものは見ていた。
「そんなんじゃないと言っているだろう」
シェーンの口調に怒気が少し含まれていたのに気づいたが、ハルトはそれを無視した。
「けどさ、本当にシェーンってリュートに対しては気にかけてるよな。普段喋ってることなんてないのに」
「お前には関係ない」
「だからさぁ、シェーンに惚れてる一人として二人の関係が気になるわけなんだよ」
ハルトはいつもそんなことを言っているが、シェーンは信用していなかった。
「もういい」
これ以上話しても無駄だと思って、何も言う気にはおきなかった。隣ではハルトがまだ何か言っているようにも聞こえる。
それでもシェーンは黙ったままずっとリュートを見ていた。
「それじゃぁそろそろ寝るよ」
リュートはもう寝たいと思ってキッドたちとの話を終えようとした。隣にいるレイも眠たそうにしている。
「そっか、今日は疲れてるもんな。悪かったな」
キッドはリュートが疲れているだろうことを思い出し、それなのに話につき合わせて悪かったと謝った。
リュートは別にいいよと言い、レイと自室へ帰ろうとする。セリアもリンダとの喧嘩が終わったようで帰ろうとするリュートたちを見て途中まで一緒に行くと言い出したので三人で休憩室を出た。
「それにしても今日は大変だったよな……」
「そうだね……」
リュートの言葉にレイが頷く。キッドたちに今日のことを聞かれたけども、三人とも今日の出来事を振り返っても本当に何が起こったのか彼らにもわかっていなかったのだ。ライルは気にするなと言っていたけども誰でも気になるだろう。
三人は今日のことを思いながら自室へ歩いていると、突然クルスが走ってきてリュートにぶつかった。
「クルス?」
「!」
クルスは息を乱していて、声が出せないようだった。よほど急いで来たのだろう。そしてリュートを確認するなりいきなり自分がきたほうにむかってあせるように指差した。リュートはいきなり現れたクルスに驚きながらも彼が指差した方向を確認する。
「皇の間……?」
クルスが指を差している方角はあきらかに皇の間だった。リュートのつぶやきにもクルスは必死に首を動かし頷いていた。セリアとレイも突然のことにわけが分からなかった。そしてクルスは少し落ち着いたらしく声が出せるようになってきた。
「せ、先生が……!」
「ちょっ、落ち着けクルス!」
クルスはいまだに混乱しているようだった。クルスの態度にただごとじゃないと感じたリュートたちはクルスを必死になだめつけて何があったのか確認した。
「ぼ、僕……この辺を歩いていたら突然皇の間から大きな音がしたんだ。すごいびっくりして何かあったんだろうと思って見に行ったら……行ったら……」
一旦話を止めて、一呼吸おく。そのあとクルスはリュートにむかって叫んだ。
「リュート!早く助けに行って!先生が……先生が!!」
「先生がどうかしたのか……?」
クルスはそのあと何かを思い出したかのように怯えて、ずっとリュートにむかって助けに行ってと叫び続けていた。
「リュート、皇の間へ行かないと!」
何か大きな不安を感じ、セリアはリュートにうながす。リュートはクルスの様子に呆然としていたようでセリアの声で目を覚ました。
「あ、あぁ」
「けど、危ないかもしれないよ!」
レイはあまり行きたくないと感じている。リュートとセリアもレイの気持ちは分かっていた。
二人も出来るなら行きたくないと思っているのだ。
本能が警告していたのだろう
――行ってはならない、と
それでもリュートは行かなければならないと感じた。急がなければと思い、皇の間へ向けて走りだす。そのあとをすぐにセリアが追い、レイも覚悟を決めてあとに続く。
三人が走り続けると、皇の間が見えてきた。
その閉ざされている扉はいつも以上に大きく、そして恐ろしく感じた。
それでも三人は中へと踏み出した。
その大きな扉を開けて。
そして皇の間へと踏み出したリュートたちの眼前に広がった光景は――
狂ったように笑っている皇帝と
涙を流しているマリーアと
妖しく微笑んでいるアイーダと
そして――全身が血にまみれてもなお、必死に地に足をつけようとしているライルの姿だった。