Mystisea

〜想いの果てに〜



五章 別たれる道


07 嵌められた罠








「さて……話してくれないか?」
 久しぶりに美味しい食事をした後、その片付けが終わると徐にセリアの父親が口を開いた。セリアの家の居間にみんなが集まり、両親を向かい側にセリアたちは並んで座っている。その質問にいよいよかと、リュートたちはみんな緊張し始めた。
「お父さんたちはどこまで知ってるの……?」
「何も知らんさ。ただお前が……国家反逆罪となったと知らされただけだ」
「……」
 セリアはその時の両親の悲しみを思うと、申し訳なく思い、そのまま黙ってしまう。
「だがお前が本当に無事で良かった。今までどうやって過ごしてきたんだ?きっと辛かっただろうな……」
「……それについては私からお話させて頂きます」
「貴女は……」
「セリアさんの担任を務めていました、マリーア=ホーネットと申します」
 マリーアが自己紹介をするとセリアの父は軽く驚いたような感じを見せる。
「あぁ……貴女がマリーアさんか。お話はよくセリアから聞いてます。貴女もこの度は本当に……」
「いえ、私のことは気にしないでください。それよりもお嬢さんのこと、本当に申し訳ありません。この子たちは本当は全然関係がなかったのに、私のせいで巻き込んでしまい……」
「……いや、それこそ気遣いは無用です。恐らくはアルスタール城からずっと貴女がここまでセリアを守ってきたのでしょう?私たちこそ貴女に感謝したい……」
 マリーアは両親へと謝罪の言葉を述べ、両親はマリーアへお礼の言葉を述べた。お互いが止めようとしても、どちらも譲ろうとはしない。
「ではここまで来ることになった経緯をお話します」
 そうしてマリーアはセリアの両親にアルスタール城の出来事からここまでの出来事を簡潔に話し始めた。途中で口を挟もうとせず、セリアの両親は熱心にマリーアの話を聞いている。その場にはマリーアの声だがけが響き渡った。
 アイーダとヒースのことだけは伏せいておいたが、マリーアはだいたいのことを話し終えた。するとセリアの両親は唸るような声を上げ、考え込むような仕草をする。
「そんなことが……」
「……はい」
 神妙な面持ちになりながらも、セリアの両親は黙ってしまう。
「お父さん……お母さん……」
 セリアは黙った両親に不安そうな声で呼びかける。すると両親は顔を上げてゆっくりとセリアの顔を見た。
「セリア……」
「お願い!私たちをこの家に隠れさせて!私……もう帝国から逃げ回るなんて嫌なの……だから!」
 セリアは涙を流しながら、両親へと必死に訴えていた。両親もそれを聞いて涙を流す。特に母親は号泣というように泣いて、隣にいる父親の肩にもたれかかっていた。父親も辛そうな表情を見せる。
「だがセリア……お前は分かっているのか……?」
「何……?」
「そこにいる子供が生きてはいけない魔の子だということを……」
「……!!」
 その瞬間、その場の空気がヒビが入るように割れた気がした。瞬時にリュートとマリーアはヒースを庇うように前に出る。セリアは父の言った言葉に動揺し、動けずにいた。しかし両親は何も変わらずに話しを続ける。
「魔の子とはもはや生きてはいけない存在なんだ。セリア……まさかそれが分からぬお前ではないだろう」
「何言ってるの、お父さん!!本気で……本気で言っているの!?」
「お前こそ本気で言っているのか!?」
 セリアの言葉に父も激昂し、その場に勢いよく立ち上がった。あまり聞かない父の怒鳴り声に、セリアは思わず身が竦んでしまう。
「……どこでヒースのことを知ったんですか?」
 何も言えなくなったセリアを庇うようにマリーアが言葉を出した。ヒースを後ろに下げて庇うように、セリアの両親に警戒を見せる。
「それは……」
「セリア……お願いだから…大人しく捕まりなさい……」
「お母…さん……?」
 急に理解出来ないような言葉を放った両親にセリアは戸惑いを隠せなかった。しかしそれを無視して、次々とセリアの両親は話を進める。
「大丈夫よ。貴女が処刑されないようにって、シューイ様も約束してくださったわ。貴女はただ巻き込まれただけなんですもの……罰されるはずがないわ」
「シューイが……何を……」
 セリアの母は言い聞かせるように、セリアに近づいてその身体を掴もうとした。しかしセリアはそれを本能的に、後ろに一歩下がり避けてしまう。突然母から放たれたシューイの名にも動揺していた。
「セリア……私たちの言うことが聞けないの?」
「分からない……何言ってるの…お母さん……お父さん……」
 セリアはまるで恐ろしいものを見るかのように両親を見つめる。その視線に居た堪れない気持ちになりながら、両親もまたセリアを見返していた。すると途端にマリーアが何かを分かったように声を上げる。
「まさか……貴方たちは!」
「先生!」
 レイもまた何かに気づき、声を上げた。
「外が……外が何だか騒がしいんです!」
「……!?まずいわ!」
 マリーアは青褪めた顔になりながら、レイの言葉の意味を理解する。余り状況についていけてないリュートたちを残しながら、急いでマリーアは家の扉を開けて外に出た。そしてそこで見た光景にマリーアは絶望する。
「……そんな……」
「こ、これって……」
 リュートもまた後ろから外を覗くと、その状況に呆然としていた。
 すでにセリアの家は多くの帝国騎士団によって包囲されていたのだ。騎士たちが鎧を着こなし、虫一匹も逃がさないように町の通路を封鎖している。その後ろからは町の住民たちが遠巻きに何が起こったのかと見に来ていた。そして何よりも帝国騎士団の中心にいる人物とその姿に驚きを隠せない。
「シューイ……」
 セリアもやってきてその姿を眼にするとそう呟いていた。シューイもまたセリアを眼にすると、悲壮な顔をして眼を逸らす。シューイの隣にいたリンダもまたセリアとは眼を合わそうとしなかった。
「もう終わりだ……。今度こそ逃げ場はないぞ」
「シューイ!何でお前がここにいるんだ!」
「リュート……」
「止めなさい、リュート!」
 叫びを上げるリュートをマリーアが手で制した。そして今度はみんなを庇うようにマリーアだけが前へと進み出る。
「先生……悪足掻きはもう止めにしてください」
「……シューイ様……貴方がギレイン様の後をお継ぎになったのですね」
 マリーアはシューイが騎士団長の鎧を着こなしていることから、すぐにそれを察知した。その言葉にシューイは皮肉げに反論する。
「そうだ。お前たちがギレイン殿を殺したおかげでな」
「違う!ギレイン様を殺したのは俺たちじゃない!」
 その言葉を耳にしたリュートは怒りを露にしていた。シューイも本気でそう思っているわけでもない。
「シューイ!お前は知ってるのか!?お前の父親が何をしているのかを!」
「何だと……」
「止めて、リュート!」
 それはシューイにとって父親を侮辱されたも同然だった。リュートと同じように怒りを露にするが、そこへセリアが止めに入る。
「リュート、お願いだからシューイには何も言わないで……」
「セリア……だけど!」
 それでもセリアは無言で首を横に振る。リュートもそれでは何も言えず、俯くしかなかった。
「……反逆者マリーア=ホーネット、そしてその生徒三名、魔の子一名。……お前たちをアルスタール城まで連行する」
「シューイ!!」
 その無情なる命令がその場に下された。その響き渡る声に、辺りは騒然とする。マリーアは必死に逃げ場を探すが、どこも騎士団が封鎖して抜けれそうにはなかった。
「リュート……私が道を拓くわ!みんなを連れて逃げなさい!」
「何言ってるんですか、先生!!」
「そうですよ!先生もいなきゃ僕たち……」
 マリーアを覚悟を決めて戦いに挑もうとした。それをリュートたちは必死になって止める。そもそもこの包囲を抜けれるとは到底思えなかった。
「先生……貴女ならそういう行動に移ると思っていました」
 ふとシューイがマリーアたちの前に進み出てくる。
「何ですって……」
「貴女の強さは私も知っている。だからこそ……先に手を打たせてもらいました」
「……?」
 シューイの言葉の意味が分からずマリーアは首を傾げるが、それはすぐに身体の変化によってい理解した。
「これは……!」
 マリーアが身体を動かそうとした時、途端に身体が痺れるように動かなくなりその場にしゃがみ込んでしまう。
「先生!」
 それを見たリュートたちがマリーアを助けようと同じように身体を動かした時、マリーアと同じ症状がセリアを覗いた全員に起こった。それを見た時マリーアは瞬時に悟り、後ろを振り返って開け放たれた扉の奥にいるセリアの両親に眼がいく。
「……」
 二人はマリーアの視線を受けると、耐えられないように顔を逸らして俯いた。
「そう……最初からそのつもりだったのね……」
 セリアの両親を信じきった自分がどうしようもなく惨めだった。きっとあの食事に薬でも盛っていたのだろう。身体の自由を聞かないようにするのには十分ものであった。
「捕らえろ!」
 そのシューイの合図で周りにいた騎士たちがいっせいに動き出す。その様子を見て、ただ自由なセリアは叫びを上げた。
「お願い!止めて!!シューイ!止めてよ!!」
 周囲の視線など気にもせずにわめき散らすセリアを見て、シューイもまた苦痛の表情を浮かべた。そしてセリアの後ろに立ち、後ろから優しく抱きしめる。
「……すまない」
「……!!」
 その一言にシューイの想いを理解したセリアは、途端に黙って泣きながらその場に顔を俯かせた。振り向いてシューイに抱きしめ返すことすらしないで。