Mystisea

~想いの果てに~



六章 為すべきこと


24 セクツィアの決意








 セクツィアに帝国から侵攻 があって数日、セクツィアでは慌しくみんなが忙しく過ごしていた。その中でリュートとヒースだけは、何もせずにムークの家の中でただ時を過ごすばかりだ。 ムークに何かを申し出ても、客人だからと全てを拒まれていた。

 しかしそれも終わり、今朝 になり突然リュートとヒースはムークに呼ばれることになった。

「やっと俺たちにも手伝わせ てくれるのかな」

「……どうだろうな」

 自分たちも力になれるのだ と思うと、リュートは塞ぎこんでいた気分も少しは晴れていく。それを見て、ヒースは少しだけ嬉しく思った。この数日の間、リュートでさえも明るい気持ちに はなれずに暗い雰囲気を漂わせていたのだ。近くで見ていたヒースは、それがリュートらしくなく複雑な想いだった。

「っと、ムークさんが言って た場所ってここかな」

 そこはフェルスの中で一際 大きな建物で、多くの妖精が収容できる場所だった。どうやら妖精たちの集まりによく使われるようで、リュートたちはここに呼ばれていた。その扉に手をか け、リュートたちはその中へと入っていく。

 その中は幾つかの部屋に分 かれているようで、リュートはどこへ向かえばいいのか分からなかった。しかしそんなリュートたちを助けるように、二人の前にユーラウスが現れる。

「こっちだ」

 シェーンにやられた傷は完 治していないのに、ユーラウスもまたこの数日間忙しく動き回っていた。身体から見れるその傷跡からリュートは眼を逸らしたくなるほどだ。

 ユーラウスに案内されて、 リュートはようやく目的の部屋へと辿り着く。ユーラウスがその扉をノックすると、中からムークの返事が聞こえてきた。それに従い、リュートとヒースはユー ラウスを先頭にしてその部屋へと入る。

「わざわざ出向かせてすまな かったな」

「いえ……。それよりこれ は……」

 その部屋はそこまで大きい ものではなく、数十人ほどがいれば窮屈になりそうなくらいだった。しかしその中にはそこまでの人数はいなかったので、リュートにとっては広く思える感じ だ。

 部屋の中にいるのはリュー トとヒース、ユーラウスを除くと、四人。その全員が、妖精たちの族長だった。みながどこか真剣な面持ちをして、リュートとヒースを見つめる。リュートは知 らずと、少し緊張し始めた。

「お前たちに謝らなければな らないことがある」

「え……」

「まずは今回の戦について だ。本来なら関係ないはずなのに、巻き込んでしまってすまない。しかしお前たちがいなければ、ワシ等は全滅していたかもしれない。礼を言おう」

「そんな……!俺たちは関係 なくなんてありません!」

 どこか部外者にさせられた ような疎外感を感じ、リュートは悲しくなった。

「……ありがとう」

「ムークさん……」

 その言葉からはどこか拒絶 の意思が含まれているようにリュートは感じてしまう。

「そしてここからだ本題だ」

「……」

「お前たちをセクツィアにい させることをワシは許した。しかし……それを撤回させてもらう」

「なっ!?」

「本当にすまないと思ってい る」

 ムークはリュートたちに頭 まで下げていた。それを見てリュートはやりきれない気持ちになる。原因なんて分かりきっている。明らかに今回の事件があったからだろう。

「……そしてあんたたちはこ れからどうするんだ」

「ヒース……」

 ヒースがムークの眼を見つ める。その視線が全てを見透かされているようで、族長たちは僅かに顔を俯かせた。

「戦うつもりか?」

「え……」

 そのヒースの言葉にリュー トは驚き、慌ててムークたちを見た。しかしその視線から逃れるように、リュートから視線を逸らす。

「どういうことですか!」

「……ふぅ。さすがはヒース か。賢いな」

「ふぉっふぉっふぉ。さすが のムーク殿もヒースには敵いませんか」

 観念したように口を開く ムークに、ギルナも突然笑い出した。その様子をリュートは呆けた感じで見る。しかしムークが途端に真剣さを帯びた表情でリュートたちに向き直った。

「……ワシ等は戦うことを決 意した」

「戦うって……帝国 に……?」

「正気か?戦力差など分かり きっているだろう」

「……それでもだ。私たちは 帝国と戦う。あの戦いでリリと……多くの仲間を失った。恐らくは近いうちに次の攻撃もくるだろう」

 サランは怒りを秘め、それ を口にする。しかし明らかにセクツィアが帝国に勝てる力を持っているはずがなかった。

「もはやこれはワシ等皆で決 めた決定事項。お前たちが口を出すことではないのだ」

「そりゃ帝国を許せないのは 分かるけど……それでも戦争なんて俺は嫌だ!俺はやっぱり信じたいんだ……いつか人間と妖精が分かりあえる日が来ることを!」

「理想論だ。人間のあの行動 を見ただろう。奴らは俺たちが滅びるのを望んでいるのだ」

 ユーラウスもまた人間に対 しての怒りが更に大きくなっていた。憎悪に似た近い感情を見て、リュートは悲しくなる。

「……リュートくんは優しい のね。私たちのことをちゃんと心配してくれている」

「ルミナさん……」

「けれどね、もう限界なの よ。サランさん言った通り、近いうちに彼らはまた攻めてくる。それを止める手立ては、もう戦うしかないの。それに例えその戦いを免れたとしても、私たち は自然の滅びを待つだけ……」

「そうだ。結果が同じなので あれば、ワシ等は戦うことを選んだのだ」

 妖精たちの決意を耳にし、 リュートはもはやどうにも出来なかった。自分が何を思ってるのか、どうしたいのか、それすらも分からない。

「ならば大人しく戦って殺さ れるのを待つというのか?」

「……お前たちに迷惑はかか らせない。だからこそ、近いうちにセクツィアから出て行くのだ」

「それでここにはいられな いって……」

 ヒースもまた、やりきれな い想いを浮かべていた。妖精たちの決意は固く、たとえヒースの言葉でも聞き入れはしないだろう。このまま黙って妖精が滅びるのを見ているのは、どうしてだ か出来なかった。

「分かったのなら、すぐにで もここを発て。しばらく暮らせるだけの準備はこちらからもしよう」

「けど、俺たちは……」

 このままセクツィアを出た としても、もはやリュートたちに居場所はない。それもムークは分かっているが、ここに置いておいても死ぬだけなのだ。

 リュートはどうしたらいい か分からずに迷っていると、その後ろの扉が突然開く。そこから現れた人物にリュートは驚きながらも、嬉しさを覚えた。

「先生!?」

「マリーアさん!」

 その名をリュートとルミナ が叫び、現れたマリーアもその部屋の中へと足を踏み入れた。その後ろには隠れるようにアニラもついている。

「お前は……」

「初めましてですね、ムーク 様。挨拶が遅れて申し訳ありません」

「マリーアさん、どうしてこ こに……」

「ごめんなさい、ルミナさ ん。でも私は……もう決めたんです」

 マリーアは真剣な顔をし て、その場にいる人たちを見つめた。ムークは始めてみる人間に戸惑いながらも、ルミナに密かに聞いていた話を思い出して納得する。

「何の用で来たのだ」

「……話はだいたい聞いてい ます。まずは私も貴方がたに協力をさせていただきたいと思っています」

「先生!?」

 突然のマリーアの申し出に その場にいる誰もが驚きを隠せないでいた。

「何を言っている。ワシ等は 人間と戦うのだぞ」

「本当にそうなのですか?」

「何……?」

「貴方ならお分かりのはずで す。戦うべきは人間ではなく、帝国だということに」

「……同じことであろう」

「いいえ、大きく違います」

 ムークはマリーアと視線を 交わしながら、その話に注意深く耳を傾けた。

「皆がご存知の通り、今の帝 国は昔とは大きく違います。最も昔から私たち人間の妖精への軽蔑は始まっていたのかもしれません。しかし少なくとも直接的な接触はなかったはずです」

「その通りだ」

「今の帝国が変わりだしたの も、全てはある男のせい。もはや帝国に不満を抱くものは大勢いるのです。しかしほとんどがその圧倒的な武力の前に表立てはしないだけ……」

 その言葉の通り、リュート も帝国内で国に不満を持つものは見てきた。マリーアの言うことに嘘は何もない。

「ある男だと?いったいそれ は誰なんだ」

「……六年前より帝国に現れ た男。宰相アイーダ」

「……なるほど。確かにその 名前はセクツィアでも知られている。その男が黒幕だとでも言うのか?」

「そうです。アイーダは普通 の男ではありません。いえ、人間ですらないのです」

「人間でない?それはいった いどういう意味だ」

「アイーダの正体……それ は、魔族」

 そのマリーアの言葉に、部 屋の中には緊迫した空気が流れ出した。妖精たちの誰もが信じられないような顔をする。

「アイーダが何を企んでいる のかは私にも分かりません。しかし今となっては皇帝もアイーダに毒され、正気ではないのです。ここ最近の帝国騎士団の任務は、ほぼアイーダが絡んでいると いってもいいでしょう」

「ならば今回のこともそのア イーダが命令したと!?」

「……恐らくは」

 一旦部屋の中に、重苦しい 沈黙が訪れる。しかし誰もがマリーアの話を疑いはしなかった。

「……けれど、マリーアさ ん。帝国は貴女がこれまでいた場所でもあるのです。本当に戦うことが出来るのですか?」

「それは少し違います、ルミ ナさん。確かに私はこれまで帝国で働いてきた。だけどそれは何も知らなかったから……。真実を知った今、私はもうあそこに居続けることは出来ません」

「マリーアさん……」

「すでに覚悟は決めました。 このまま帝国を……アイーダを自由にさせてはいけない!妖精を滅ぼさせるわけにもいかない!私はもう逃げるのを止めたから、だから……私は戦います!」

「先生……」

 マリーアの覚悟は本物だっ た。これまで悩み、苦しみながら、そして一度は逃げてしまったマリーア。けれど無事で、成長したリュートたちの姿を見て、逃げるのも止めにしたのだった。

「なるほど……いいだろう。 お前の言うことは最もだ。何もワシ等とて人間を滅ぼしたいわけではない。そう、ワシ等の敵は帝国なのだ。……異論はあるか?」

「ふぉっふぉっ。ワシは異論 ない。ワシ等妖精を守るためなら、どことでも戦おう」

「そうだ。リリのことを許せ はしない……。だが、私たちは守るために戦うのだ」

「そうですね。出来ることな ら争いは避けたいけれど……これ以上セクツィアが滅ぶ姿を見てはいられません」

 ムークの問いかけに、それ ぞれギルナ、サラン、ルミナは答える。族長たち四人の一致した答えは、少しの希望に満ち溢れていた。

「……俺も、俺も戦う!」

「リュート!?」

 これからの行動が決まった 妖精たちを見て、リュートも同じように決意した。

「先生の言うとおりです。俺 だってアイーダをそのままにしてはおけない!今の帝国は変わらなきゃ、ダメなんだ……」

「リュート、無理はしない で。貴方は――」

「先生」

 リュートの心配をして止め ようとするマリーアに、リュートは遮ってその名を呼んだ。

「俺の心配ならもういりませ ん。あの時言ったように、俺はもう守られるほど弱くはないから」

「けど……」

「分かってます……。帝国と 戦うこと、それは騎士団と……みんなと戦うことになる。でも、それでも俺は戦います!みんなに分からせてやりたい!今の帝国はおかしいってことを!」

「……ふふっ。そうね、 リュートの言う通り。戦うというなら、アイーダのことだって隠す必要もない。知らせれば、きっと私たちの力になってくれるわ。……本当に、成長したのね」

「だから言ったでしょう!俺 をもう生徒扱いしないでくださいよ」

 マリーアの褒め言葉に、慣 れていないリュートは照れ隠しに笑って抗議していた。マリーアもこれ以上生徒だからとリュートを守ることは止めようと思い直す。

「……お前はその道を選ぶん だな?」

 リュートの決意を傍で耳に したヒースは、確認するように重い口調で尋ねる。リュートもヒースを見つめ返し、決意を込めた表情で首を縦に振った。

「あぁ。ヒース、お前 は……」

「まさかここまで来て逃げろ なんて言わないだろう?」

「ヒース……」

 心配だからこそ、ヒースに 戦ってほしくなかった。そんなリュートの心を見透かしたように、ヒースもまたリュートと一緒に戦うことを決める。そのことに心配になりながらも、やっぱり どこか嬉しさを覚える。

「話はまとまったか」

「ムークさん」

「お前たちが戦うと決めたの なら、もはやワシからは何も言うまい……」

 二人の決意を認め、ムーク たちもこれ以上何かを言うことはなかった。

「だけどこれからどうするん ですか?今のセクツィアの戦力では……」

「そうだ。確かに今のワシ等 では全軍を以ってしても、帝国騎士団の一軍にすら敵わないだろう……」

「まずは先日の戦いの傷の回 復。さらに軍備も補強していかなければならない」

 問題は山積みであるが、や はり一番の問題は戦力の差であった。これをどうにかしなければ、勝つことなど不可能である。そこでマリーアは考えていた作戦を妖精たちに提案した。

「東西の国を味方につけま しょう」

「人間たちを……?」

「東のレーシャン王国、西の 魔導国家マール。どちらも強大なアルスタール帝国に従ってはいますが、少なからず帝国へ不満は抱いているはずです。呼びかければ力になってくれるかもしれ ません」

「人間と手を組むか……」

 難色を示す者も何人かいた が、誰もそれに反対する者はいなかった。分かっているのだろう。自分たちだけでは帝国に勝てないこと。いつまでも人間とこのままでいてはいけないことを。

「いいだろう。もしワシ等と 戦ってくれるというなら、こちらとて願いたいところだ」

 その言葉にマリーアは頷 き、具体的な作戦を口にしていく。

「まずはマールから呼びかけ たほうがいいでしょう。マールの導王ジルは聡明な方だと聞いています」

「……そうだな。ワシも導王 ジルとは昔に面識がある。その時はまだ即位はしていなかったが、立派な人物だった」

「はい。導王ジルとは、向こ うは知らないでしょうが少しだけ縁があります。マールへはすぐにでも私が出向きましょう」

「一人では危険だ」

「しかし妖精が外へ出ては騒 がれます」

「だったら俺たちも行きま す!」

 そこへリュートが自分から 躍り出た。マールでは少し苦い思い出もあるが、そんなことは関係ないだろう。

「いいだろう。ならば東西の 国についてはお前たち三人に任せる」

「はい!」

 リュートたち人間だけに任 せること、それはムークからの信頼の証でもあった。リュートはそれに応えられるように、期待と希望をもって魔導国家マールへ再び行くことを決意する。







 メセティア暦242




 セリアン ス大陸の歴史は大きくその流れが変わろうと動き出していた